冬なのにナツヨムその2「いい感じの石ころを拾いに」

ナツヨムで購入した本、二冊目。


宮田珠己さん「いい感じの石ころを拾いに」です。
著者の宮田さんの趣味は「いい感じの石ころを拾う」こと。そして持って帰る。それだけ。本当にそれだけ。
そこには目的もなければ狙いもなく、ただただいい感じの石ころを拾うのですね。


石の上にもまた石が

とはいえ、本当にただ石を拾っているだけではなく、徐々に展開が生じます。拾っているうちに石への興味は広がり、メノウコレクターの家に行ってコレクションを見せてもらったり、ミネラルショー(石の展示即売会みたいなイベントらしいです。かなりいかがわしくて面白い)に出かけていって、息子にサッカーシューズ買ってやれるなあと思いつつ一万五千円の石を買ってしまったり。
初出は河出書房のWebサイトでの連載なのですが、読者からメールが来たので大洗まで会いに行ったり。(宮田さんは「読んでる人がいたのか!」とか驚く)


その過程で、宮田さんは自分にとっての「いい感じ」の価値観が揺らぐのを感じます。ずっと好きでやっていることが、ふとしたことで何だか揺らぐ。余程ダイハードなマニアでないと経験することかと思います。宮田さんの飾らないけれどユーモラスな語り口によるその困惑は、時にはっとするほど胸に迫ります。


そんな宮田さんの石拾い遍歴は、最終的にどうなるのか? ネタバレしてしまうと、別にどうにもなりません。
最後の最後の文庫版付録でいきなりいい感じの石ころ宝庫みたいな場所の情報が提供されたり、その関係でドカドカ新しい登場人物が増えたり、結局「いい感じの石ころ」の基準が定まらないままだったり。それこそ石を転がしたような展開で何となく終わってしまいます。何てこった。

でも、考えてみたら趣味ってそういうもんですよね。それ自体にドラマがあるわけでもなく。むしろ、やたらと趣味にまつわる謂われとかその趣味を通じての狙いとかがあったりしたらかえって胡散臭いですよね~。これ、趣味のある人には分かる感覚では。


と本編の感想はここまでなのですが、解説にぶったまげたので追記。


あなたが、武田さんだったのですね(京極堂クリシェ

宮田さんの石拾いの旅には編集者の武田さんが同行します。
この武田さん、いまいち石ころ拾いのロマンを共有できないのか、浜辺でぼんやりしていたり、訪問先でCD棚をチェックして帰りに「プログレが充実してましたね」とか関係ない話をしたり、そもそもついてきてるはずなのにほとんど発言がない回があったりします。
その武田さんが解説を書いてらっしゃるのですが、そこで正体が明かされてびっくり仰天。武田さんの正体は、かの武田砂鉄だったのです。あ、あんただったのかー!今をときめく人気ライターの武田砂鉄さんですが、元々河出書房にいらしたんですね~。(注:文庫は中公文庫から)



そんな「編集の武田さん」の解説ですが、「改めて読み返してみたが、解説しておきたいことなんて特にない」「海岸でずっと拾ってる宮田さんを見ながら、お腹すいたな、早く宿にかえってゆっくりしたいなと思ったこともある」「石ころを拾った日々は、自分に何の影響も与えていないのである」なんて文章が次々繰り出されます。身も蓋もない。石ばっかり拾っててお金を使わないからかえって出張報告書が通りにくかった、みたいな話はさすがに抱腹絶倒でした。

とはいえ、武田さんは解説において決して石ころ拾いを軽んじてはいません。そもそも拾ってる当人が意味を持たせる気皆無だから、軽いも重いもないんですね。そこをしっかりと解きほぐす、解説として納得の内容。さすがだ。





こちらがナツヨム仕様の帯。字に表情があっていいですよね~。素敵ー。
帯からも分かるとおり、オススメされているご本人も石ころを拾う趣味をお持ちで、高知辺りまで足を伸ばされることがあるそう。高知! すごい!


ちなみに本書には石ころ好きな謎の素敵女性・奇岩ガールが登場し、しばしば宮田さんの石拾いに同行します。ま、まさかその正体は貴方!? と思い訊ねてみたところ否定されました。確かに名前違うしな……しかしどうだろう……(まだ疑っている