佐々木禎子さん「はるの味だより 思いの深さの花火弁当」。
シリーズ第三巻。ちなみに四巻も書き上がっていて刊行日も決まっております。広がるはるワールド!!
佐々木さんは、本シリーズについて「美味しいものを食べて癒やされるものが書きたくて書いた」という旨をしばしば仰っています。
その言葉に偽りはありません。立原圭子さんによる作中の料理を見事に描いた表紙から受ける印象通り、温かくほんわかとする読後感があります。
出てくる料理も本当に美味しそうで、なおかつ作品の世界とも程よく調和していて、お見事の一言です。
ですが、ただただ優しく美味しいだけの世界でもないようにも感じるのです。
奥行きがあるのですね。それはまさしく、丁寧に作られた料理の味わいのように。
刺さると言うも生温い
「売りもしないで、いきなりただ有名になりたいなんざ、こっちからすると逃げているようにしか見えないんだ」
一膳飯屋・なずなを営む主人公のはるを商いの面でサポートしてくれる治兵衛さんの言葉です。「うんざり半分、楽しみ半分」な顔で言ってくれるので気づきにくいところですが、言葉そのものは大変に重いです。
ただ売れたい売れたいとばたばたするのではなく、商うことに対して腰を据えて真剣に向き合い取り組む。肺腑を衝く鋭さと深さがあります。
「負けたくないなら、とりあえず何回か、勝負はしないと。なにもしないでいたら、そりゃあ負けることはないけど、勝ちもしないよ」
今回の巻ではこういう箴言も。
厳しい言葉です。しかし、これは激励、聞く者をして背筋を伸ばしめる力のある励ましなのです。
隠れている味、いない味
とはいえ、スパルタではるを鍛え上げ競合他店を粉砕し大江戸最強の一膳飯屋に成り上がるとかそういうわけではなく。
人間の気持ちの色んな部分をすくい上げることもあります。
たとえば、大変つらい環境にあり苦労している女性・みちを前にしたはるは、「かわいそう」という言葉の意味を考え込みます。
下に見ているわけではない。はる自身が幸多いわけではなく、何か一つ違っていれば同じ苦労を背負い込むことになっていた。
しかし、現実はそうなっていない。ほんのわずかな「なにか」が二人の環境に違いを生み、明白に分けてしまっている。
簡単に答えが出る問題ではなく、よって簡単な答えは与えられません。
僕はおみっちゃん大好き!
登場人物たちの、彫りの深いリアリティにも触れておきたいところ。
たとえば彦三郎さん。はるとつかず離れずなにやらなにかな関係となり、はるを惑わすわけですが。
どんな人なのかと改めて描写されるわけですが、
「そこそこのご面相で、誰にも責任を持たない感じに優しいから娘っ子がついてきてしまう」
「惚れる女はたいがい途中で目が覚めて、優しいだけの甲斐性なしって見限る。でも何人かは『あんたはあたしがいないとダメなんだから』って深惚れして世話を焼き出す」
これすごいよな~~と思います。
ダメな人と優しい人は両立するんですよね。ずるい人といい人も両立する。そこを嫌味なくしかし甘くもなくさらりと書いてしまう。
夫婦で基本完結している冬水さんも、毎回印象深いです。
いるよな~って。何か人間としての金具がこの上なくぴったりと噛み合ったもんだから、他の人間があまり必要ない夫婦。決して他者を遠ざけてるわけじゃないんですけど、基本的に二人で世界が完結できてる感じ。
往々にして、どっちかが亡くなってしまうと(特に残されるのが男の人だと)もう一方も割とすぐに……なんてこともあったりしますが、そう年配ということもないので大丈夫でしょう……。
最後に! 宣伝!!
佐々木さんはウェブトゥーンのような今時コンテンツ最前線なところで活躍されています。すごい!
ライン漫画のファンタジーSFジャンル女性で2位だ!
— 佐々木禎子 🐾 (@cheb1988) March 25, 2023
嬉しいな。
ライン漫画派な皆様、読んでください!
ルビー姫がかわいいよ。 pic.twitter.com/pKdJZug3r1
一方でこういう作品も書けるという、引き出しが多いという言葉を体現するかのような。大人の小説、ってこういう感じなんだろうかと思います。
そしてそんな佐々木禎子さんから原案を頂きまして、
わたくし尼野ゆたかがコラボ小説という形で新作を執筆いたしました。
5月15日、遂についに僕と佐々木禎子さんのコラボ小説
— 尼野ゆたか@5月15日コラボ小説刊行! (@amano_yutaka) March 23, 2023
「生贄妃は天命を占う 黒猫と後宮の仙花」が刊行されます!https://t.co/JgSE334eO3@kadokawa_prより
原作:佐々木禎子さん@cheb1988
著:尼野ゆたか
イラスト:紫藤むらさきさん@purplemrsk
是非よろしくお願いします! 面白いですよ!!
はるの味だより四巻「秘めた想いの桜飯」と同日刊行です!
また詳しくは改めてブログ記事を書きますので、チェックよろしくお願いします~。