雷音の機械兵

 涼海風羽さん「雷音の機械兵」。


冬の屋外からオンライン飲み会に参加してきた男・ 涼海風羽

3月で一旦活動休止となった、小説好きが集まるオンライン・コミュニティである「デジタル・ケイブ」様。
こちらで僕は沢山の素敵な方や素晴らしい本と出会えたわけですが、涼海さんとの出会いもその一つでありました。
朗らかで元気いっぱい、陽気で誰からも好かれる彼とオンライン飲み会等で話す時間は、とても楽しいものでした。

「雷音の機械兵」は、そんな涼海さんのデビュー作です。





エブリスタで一位を獲得し、涼海さんがあちこちの出版社に売り込みをかけ出版に至ったとのことです。
読み始めてすぐ、設定や物語が大変馴染むのを感じました。作中世界の雰囲気、あるいは登場人物に、親しみとも安心感とも言えるような感覚をおぼえたのです。
そこそこ年がいっている僕に馴染むということすなわち前時代的であるという証左ではないのかという懸念をお持ちになる向きもいらっしゃいましょうが、いえいえそんな心配には及びません。古色蒼然たる小説が、エブリスタの如きカッティングエッジな場で喝采を浴びるはずもないでしょう。






おそらく、作品が普遍的な位置に足を下ろしている場所故のことなのだろうと思います。
この仕掛け、この設定ならばこうという部分には世代やジャンルを超えた「あるべき形」が存在します。中々言語化できない、そこを上手く踏まえているわけですね。


読み進めていきますと、展開も文章も本当に力一杯で。湧き起こる情熱を叩きつけたかのようなアツさが充溢しております。
このキャラを書きたい、こちらのサイドも掘り下げたいという涼海さんの声が聞こえてくるかのようでありました。
「ネット小説」という響きが連れてきがちなある種の(現実に即しているとは言い難い)ステロタイプからも勿論距離があり、彼が彼の紡ぎたい物語を紡いだのだなあと感じます。
この熱量が、オンラインで小説を発表するという大変な営みの中で頭角を現し遂に一冊の本となるに至る、その原動力だったのでしょう。



Family business.

さて涼海さんご本人について、もう少し話させてくださいませ。
「雷音の機械兵」の著者紹介にもあるとおり、彼は舞台俳優としての顔も持っておりまして。家業である劇団に所属し全国各地を巡っているそうです。
家業! 家業だって!?

次元転移装置に1.21ジゴワット必要と聞かされた時のドクみたいになってしまいましたが(これぞおじさんの比喩である)、そらそうもなるってもんです。家業がお芝居という作家、初めてですよ……。


家業という響きからは歌舞伎の名門や大衆演劇の劇団を想起してしまいますが、本人に質問いたしましたところ、お父様が創立者にして脚本家・演出家、お母様が振付家でいらっしゃり、福岡を拠点に学校公演(小中学校、保育園や幼稚園での観劇会。公立中高の僕ですがあった記憶があります)で全国を巡業しているとのことでした。

以前『「伊豆の踊子」を読んで、「旅をしながら芸をするというのは自分にも重なって色々感じるところがあった」ということを言っていて、思わず「伊豆の踊子読んでそんな感想持てる時点で最早オンリーワンでは」と突っ込んでしまったことがありますが、いやはや本当に本当なんだなあと感嘆させられてしまいます。




こちら涼海さんのプロフィールです。




テレビCM出演! ニューヨークでミュージカル研修! 
他にも、市民参加型のミュージカルの指導や太宰府天満宮の観光施設の運営にも携わっておいでだそうです。
こんな経歴を持つ作家、二人といないのでないでしょうか。彼のような異才が小説を書くという営みを選んでくれたことに感謝するばかりです。



Twitterでは、彼の役者サイドのスキルが披露されることも。こちらの動画とか。
自分は体捌きについてはまったくの素人なので口幅ったさを感じますが、「キメ」の部分のキレとか圧倒されます。
ここでぐわっと見せる! 魅せる! というのがきっちり意識されている動きのように感じます。いやーすごいなー。



というわけで、改めて涼海風羽の今後に要注目です。きっと何か更にどでかいことをやってのけてくれるはずー!