織守きょうやさん「学園の魔王様と村人Aの事件簿」(KADOKAWA)。
ロンドン生まれという強すぎる来歴と、推理小説・ホラーなどを書くことで養ってきたセンスとを存分に活かした新刊「英国城のミステリー」が大好評の織守さん。
「学園の魔王様と村人Aの事件簿」は、主戦場たる推理小説の分野での新機軸を開拓したとも言えそうな一冊です。
「その推理力、レベル100」ってリードも素晴らしい
どの辺りを新機軸と感じたかと申しますと、それはキャラクターの魅力。今回の主人公は、探偵役と助手役を務める高校生。推理小説の定番中の定番な組み合わせなわけですが、本作ではその二人に印象深いキャラクター性を持たせているのです。
キャラクター性というのは、味付けとして濃厚な部類に入ります。迂闊に用いれば少しばかりえらいことになってしまいます。小説は文字で表現するため、視覚的な形での加減もできないので尚更。難しいんですよ、キャラクター。
しかし、織守さんは見事にこなしてらっしゃいます。それもそのはず、これまでの非推理小説である「霊感検定」や「花村遠野」といったシリーズ、人気声優をふんだんに起用した朗読劇「ナイトアウルテールズ」などで、既にそっち方面の引き出しを存分に開けていらっしゃいました。キャラクターの扱い方も、既に身につけていたのですね。ほんとレベル100だわー。
まろやかにいちゃいちゃ
たとえば二人で映画を観に行くとか、探偵の少年がおぼっちゃんでファーストフード行ったことないので連れていってあげるとか、そういうこれまた定番のエピソードでもって二人は絆を深めていくわけですが、それでもある種のあざとさを感じさせることはありません。「探偵と助手が終始いちゃいちゃしている」ということでも評判な本作ですが、そのいちゃいちゃ度合いはとてもまろやかなんですね。
それ故に、広い間口を持っていると言えるかもしれませんね。色々な人が、気軽に手に取れる一冊なのではないでしょうか。
鮮やかに謎解き
謎解きの部分については、ネタバレ云々以前にわざわざ僕が触れる必要もないですね。ただ、今回も鮮やか! とだけ申し上げておきましょう。しっかり立てたキャラクターたちの魅力を崩すことなく、「なるほど!」と膝を打ちたくなるような仕掛けが用意されています。エピソードごとになるほどなるほど膝を叩いてばかりで、キャラが崩れるどころかこちらの膝蓋骨が砕けるところでした。危なかったぜ。