角川書店編「枕草子 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」(角川ソフィア文庫)。
「え……古文の授業……?」ってならずに! これが面白いんですよ。
千年の時を筆一本で越える
「『春は曙~』はどういう所が名文なのか?」という話に始まり、
現代の我々にも親しみやすい部分を適宜ピックアップし、その魅力を伝えてくれるのです。
たとえば「心ときめきするもの」として挙げられているものから「頭洗い、化粧して、香ばしう染みたる衣など着たる」という箇所を選び、
「シャンプーしてメイクしてお気に入りの香水をつけて、女性がおしゃれをするのはだれかに見せようという時ばかりではない」と言い添えてくれます。こういう感覚にとんと鈍い野郎であるところの尼野ゆたかなどは、本当に勉強になります……ハイ……の一言です……
まさにビギナーズ
枕草子の魅力の一つは間違いなく人間描写。
敬愛する主を支えるべく一生懸命頑張る清少納言、腕は立つけど野暮で無風流な(でも清少納言大好き)元夫・橘則光、三蹟の一人で才能溢れているけど人付き合いは苦手な(でも清少納言と仲良し)藤原行成、ボコボコに言い負かされる(でもトゥンクして清少納言に夜這いし再びやり込められる)平生昌など登場人物が素晴らしく生き生きしています。
この本では、その生き生きとしたところを引き写すだけではなく、要所要所で解説を施してくれます。平生昌なんてほんとにしょうもないおっさんなのですが、そのしょうもないところにもさりげなく触れて、理解を深めさせてくれるのですね。
そのさりげない説明は「枕草子」という書物の背景やそれを著した清少納言の人生にまで届き、薄い本なのに読み終えた頃には読んだ人と枕草子との距離がはっきりと近づきます。最初の第一歩を踏み出せたわけですね。まさにビギナーズ!
「この文庫を角川書店の栄ある事業として」
角川ソフィア文庫のビギナーズシリーズは大好きで。高踏的にならず、かといって俗にも流れず、程よいところで古典の楽しさを伝えてくれます。
「古今東西の不朽の典籍を良心的編集の元に届ける」角川文庫の志を体現してるよなあと感じます。
沢山出てますが、中国の古典シリーズは揃えてます。あと「礼記」が刊行されたら四書五経コンプリートなんですよね。楽しみだなあ~。