役立たずと言われたので、わたしの家は独立します! 5 ~伝説の竜を目覚めさせたら、なぜか最強の国になっていました~

遠野九重さん「役立たずと言われたので、わたしの家は独立します! 5  ~伝説の竜を目覚めさせたら、なぜか最強の国になっていました~」(カドカワBOOKS)。

 

 

 



拝読しておりましたが、感想をアップするのがまだだったので改めて。

現在七巻、シリーズの累計は40万部を突破という大ヒットシリーズです。コミカライズも絶好調!

 


大いなる力には大いなる責任が伴なう

ブログで本シリーズの感想を書くのは初めてなので、改めて是非触れておきたい点があります。

それは、主人公・フローラが持つ「ノブレス・オブリージュに対する意識」。

本シリーズの世界設定はいわゆる「異世界転生」の文法を応用したものであり、フローラには桁外れの力があらかじめ与えられています。そして、彼女には力を行使するにあたっての信条があるように感じられます。

それはたとえば、単純に「人の役に立つと嬉しい!」という気持ちベースのではありません。だからといって、逆に「やれやれ」とクールぶって偽善者と評されるのを回避しようとする姿勢もありません。

「自分の持っている生まれつきの力は、誰かの為に使う義務がある」と考えるのです。

ノブレス・オブリージュという言葉にぴたりと対応する日本語がなく(なのでそのままカタカナ語で定着している)、その良し悪しとは別にもしかしたら日本では馴染みづらい感覚なのかもしれません。しかし、フローラの振る舞いに借りてきた倫理観っぽさはなく、気高いあり方を自然体で表現しています。

 

ジャンルを熟知しているわけではないのに一般化するのはいかがなものかという感じではありますが、「圧倒的な力を発揮して規格外だと驚かれる」「人々を救って感謝される」というのは、こういった小説において定番の表現だと思います。そこへの主人公のリアクションとして、一つの面白い試みがなされているともいえるのではないかな、と思いつつ拝読しております。

 

「こわーい魔物をモップでゴシゴシして昇天させるとか、メルヘンっぽくない?」

と、これだけでは何やらとても生真面目な主人公であるかのようですが(まあ実際生真面目ですが)、恋愛になるとフローラは全く違う横顔を見せてくれます。

フローラのお相手たるリベルの愛情表現は中々にストレートなわけですが(この巻でもド直球な台詞を繰り出す)、それに対して本当に素直に赤くなるんですね。そのピュアな素振りは力を振るって活躍する姿とは大いにギャップがあり、とても可愛らしく感じられます。

そしてこのギャップが、本巻では際だって効果的に作用するのです。



終盤において、フローラは魔法のステッキ代わりのモップを手に「私の本質はメルヘンだ」「絵本の世界に、痛みとか苦しみとか、そういうシリアスなものは要らない」と宣言します。

強大な敵を相手に一歩も引かず戦う気高さと、手にする武器がなんとモップだという魔法少女めいた可愛らしさ。一見相反するようにも思える二つの要素をそのまま保持しながら、更に新しい段階へと進んだ彼女の姿が見られるのですね。

これはアウフヘーベンだ!




「イッポンゼオイ」なども使いこなします

これまたTwitterでは触れたことがあるんですが、このシリーズにおいて顕著に見られるのが「インフレ」です。勿論世界の物価が高騰してフローラが政策金利の引き上げを断行するとかそういう話ではなく、パワーの問題ですね。

フローラがどんどん強くなっていくだけではなく、世界設定も同様。神様がいて、更にその上にはもっと高次の存在もいて、という構造になっております。カリン様神様界王様大界王様界王神様大界王神様……という流れをドラゴンボール世代としては想起してしまうところですが、よく考えてみるとこれって凄いことなのではないでしょうか。

遠野さんはこのシリーズについて、「女性向け作品」という風には仰っております。一般論として、そこにおいて上のようにドラゴンボールが引き合いに出されるような設定をぶち込むっていうのは大変難易度の高い挑戦だと思います。

また「世界で唯一、極級に相当する《ワイドリザレクション》を習得している」という言い回しにも明らかな通り、本作では「必殺技」にあたる概念もあります。ヒーローたるリベルがキメとして用いるのも「竜の息吹(ドラゴンブレス)」ですしね。ドラゴンブレス! 格好いい!

こんな感じであちこちに「男子」の文法があるわけですが、毎回手を変え品を変え登場するネコたちや(今回は選りすぐりの精鋭から特殊部隊を編成します)、上にも触れましたフローラとリベルの関係性など、「女性向け作品」として要求される様々な要素もしっかり取り入れ、読者の方々の熱い支持を集めているわけですね。

これはアウフヘーベンだ!(二回目





「私はいま、病室のベッドにいます」

現役の脳外科医でいらっしゃる遠野さんですが、なんとあとがきで本作の執筆中に急病で入院されたことを明らかにされています。

大事には至らなかったということで何よりなのですが、自分の症状を冷静に検討したり、入院時に職業欄に医師・作家と書いたことで「自称作家のお医者さんと疑われているのでは」と心配したり、と素の遠野さんのお姿が伺えて最高に面白いです。遠野九重ファンの皆様はこちらも必読でしょう。