尼野ゆたか、ブログを書く(それも長いやつを)

Twitterでの新作刊行告知からブログの更新まで随分と間が空いてしまいました。
ブログだからこそじっくり書きたいなとあれこれ考えていたら、じっくりどころではない時間がかかってしまいまして。






たとえばTwitter上ではこういう風に呟いておりますが、
これはTwitterの140字とかいうクソめんどくさい……じゃなかった大変厳しい制約に加え、ただただあらすじを書くのだという形に目的が絞られていたためなんとか実現できたものであり、
作品をしっかり説明しようと考えると、はてさてどうしたものやらと思考の袋小路に陥ってしまうのです。

そんな感じで更新作業が停滞しているうちに、いくつかの出来事がありました。



尼野ゆたか、自著の紹介に失敗する


本好きが集まるオンラインコミュニティ「デジタル・ケイブ」様に入れて頂いておりまして、そのデジタル・ケイブが毎月開催しているオンライン飲み会にちょいちょい参加しております。
先日開かれたものにも顔を出してきたのですが、その際デジタル・ケイブを運営されている作家の福田和代さんが、「是非自著の紹介を」とすすめてくださいました。

ミリタリーや社会問題に材を取った硬派な作品を多く執筆しておいでの福田さんですが、とても気さくな方でいらっしゃいまして、尼野ゆたかに自己アピールの場を与えて下さったのですね。

そこで勇んで「大江いずこは何処へ旅に」の魅力を語ろうと試みたわけですが、


「えーとこれは! 普通の女性である主人公のいずこが、マルコポーロと出会いまして、表紙のここにいるこれなんですけど……あれ、うまく映らないな……えーと……そ、それでですね。旅といってもですね、こう……なんやろ……旅をするといっても、浅草のデカいちょうちんを見に行くとかではなく、愛知なら春日井、あるいは若狭とか――」


みたいな感じで、ちょっとこれ以上再現を続けると尼野ゆたか自身の心理的ダメージが深刻なものになるのでやめにしますが、とにかく試みは大失敗に終わったわけです。自分が何書いたのかさえろくに覚えてない人みたいになってしまった……。

一方他の参加者様方は、皆様ビブリオバトルかと見まがうばかりの滑らかさでおすすめの本を紹介されていて、「あのー、浅草のちょうちん」レベルの発言に終始した尼野ゆたかの悲惨さたるや目を覆わんばかりでした。
しかし悲惨って優れた表現ですね。悲しくなるほど惨め。表意文字の底力を感じます。ウッウッ……


哀しみのどん底で尼野ゆたかは決意しました。Web上での宣伝はこうあってはならない。必ずや成功を収めるのだと。



尼野ゆたか、気鋭の作家に分析される

丁度同じくらいのタイミングで、作家の谷津矢車さんが尼野ゆたかの作家性を分析するという驚天動地の事態がTwitter上で起こっておりました。
ちょっと何を言っているのか分からないかもしれませんが、




本当にその通りなのでした。


 



いや褒めすぎでは!? 






しかも発表されている尼野作品に全て目を通し、こんな風に作家としての歩みを図説さえしてくれました。どういうことだ……尼野ゆたかが持続的な発展を続けている……SDGsを実現している……

谷津矢車さんは謎の物好きTwitterアカウントなどではなく、「おもちゃ絵芳藤」で歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞、更には「廉太郎ノオト」が高校生の読書感想文課題図書に選ばれるなど第一線で活躍する気鋭の作家です。ギエー尼野ゆたかの作品を分析している場合なんですかーという感じですよ(念のため補足しておくと、気鋭とギエーで韻を踏んでいます)。

しかしさすが気鋭の作家だけありその分析は大変的確なもので、絶対知らないはずなのに作品からその時々の状況を掌を指すように推測されていてホンマにビビりました。DMのやり取りもさせてもらいましたがそちらでもキレッキレで、尼野ゆたかの目からはうろこがボロボロ落ちるばかりだったのでした。


谷津さんは分析やそれに基づいた議論がお好きで、DMでもとっても熱く語ってくださいました。


では尼野ゆたかも熱く語り返したかというとそうでもなく、大半「なななんと! そうなのですか!?」と驚いてばかりでした。物を売らないジャパネットたかたというか……(それはただのテンション高いおじさん)

なぜそうなったかというと、たとえばそうですね……文章については意識的に工夫してきたところがあるので「はい、確かにそういうところがあるかもしれません。しかし褒めすぎでは?」などとお答えできるのですが、
図になっている作品同士の関係性などは、自分にとって思いもよらなかった視点に基づいたものでして。
お医者さんにMRIとかCTスキャンの結果を見せてもらいながら「僕の脳みそこんなんなんですね」とか「えええ、心臓の血管が詰まりそうなんですか……」とか言ってるような感じでありました。(念のため補足しておくと、尼野ゆたかの冠状動脈は今のところ大丈夫です。多分)



尼野ゆたか、尼野ゆたか=アメーバ説を提唱する

とはいえ、病院での検査とはわけが違います。磁気やX線を用いた画像診断を通じて人間がいきなり幸福感を得られるなどということは滅多にありませんが、谷津さんの言葉を尽くした分析によって僕は幸せを噛みしめることができました。これまで頑張ってきてよかった……。

なぜ幸せなのか、と申しますと。
作家を評価するにあたって様々な物差しが使用されますが(部数、受賞歴、色々あるでしょう。ジャンル、なんて方もいらっしゃるでしょうね)、谷津さんは「作品とその内容」という最も基本的な観点から尼野ゆたかの作家性と遍歴とを評してくれました。たとえ商業的な成功を収めたとは言い難い作品であっても、興味を惹かれたものにはしっかりとした評価を与えてくださいました。
これは、本当に本当に幸いなことです。Twitterでの僕の受け答えはしばしば狼狽えるばかりで言葉足らずであるかのように見えますが、あれは実際に狼狽えてしまい言葉が中々出てこなかったからなのでした。


このように詳細な解説をもらったのですから、それを踏まえれば自著の宣伝もしっかりできるはず。江戸の敵を長崎で討つ!  オンライン飲み会での失敗をブログで取り返す!!
……はずなんですがさっぱりで、やはりまとまらないままでした。考えてみれば、レントゲン写真とかを自分でまじまじと見ても、なにがどうなってるかよく分かりませんしね……。「これは骨だなあ」くらいのことしか言えません。


ふがいなさに打ちのめされながらうんうん唸る僕の脳裏にふと浮かんできたのが、谷津さんが使われた「可塑性」というお言葉でした。



これは要するに様々な形に変えられる柔軟さがあるという意味で、つまり褒めすぎではないかということですが、それはさておくとしまして。

その可塑性――字の下手な僕が手書きすると絶対文字同士のバランスが取れなさそうな単語――についてあれこれ考えるうちに、もしかしたらと直感的に思ったのです。


「これぞ尼野ゆたか」みたいな原型があって、それを適宜粘土細工みたいにぐにぐにと成形して作品を作ってきたという見方を提示して頂いたわけですが、
それを踏まえてもう一歩考えを進めてみると、もしかしたら尼野ゆたかの創作性的なものはそもそもアメーバのように常時うにょうにょしているような代物で、
その時々でなんらかの形を取り、最終的に小説として固まっているだけな可能性もあるかもしれない……?


あくまで仮説です。あれこれ創作一般について考えることもしますし、他の方の書かれたものは敬意を払う意味でも自分なりの感想が得られるまで消化しようと努めておりますが、
己の創作スタイルをここまで突き詰めるというのは中々珍しいことでして……。谷津さんに言われるまで考えもしなかったことでした。



尼野ゆたか、結論を得る


うにょうにょ仮説を前提として考えてみますと、ブログが書けなかったことにも明快な説明が与えられます。


新作「神様の恋愛相談請け負います」を書いたきっかけは、担当編集の方から「神様の出てくる話を書いてみませんか?」とご提案を頂いたことでした。

編集者というのは、作家の書いたものが沢山の人の手に取ってもらえるようあれこれ考えてくれる頼りになる存在であり、
その提案も尼野ゆたかにどんな作品が向いているのか検討して頂いた上でのことでした。
うにょうにょするばかりの尼野ゆたかとしては、まずはありがたく押し頂くべきものです。

そこでなんやかんやと本を読んだり、取材として各地の神社を訪れたりしてみました。
そうするうちに物語が浮かび、様々に考えること思うところも生まれてきて、それぞれがぶつかったり混ざったり分かれたり突然変異を起こしたりといった過程を繰り返しているうちに、小説となっていきました。
ある程度の方向が決まった後は、ひたすらうにょうにょしていたわけですね。

この過程からも分かる通り、小説の元となっている「浮かんできたもの」なり「考えること思うところ」なりというのは、大半が主観的なうにょうにょです。よって、「神様の恋愛相談請け負います」はその主観的なうにょうにょの積み重ねによって生まれたと言うことができます。(勿論、部分部分では客観的な目論見で構築しているところもありますし、主観的すぎるところは担当さんに指摘して頂き修正しております)

であるなら、出来上がってからいきなり客観的に紹介文を書こうとするなんていうのはどだい無理な話だった――という結論が最終的に導き出されるのではないでしょうか。
なーんだ! 自著の紹介ブログとか書けなくても仕方なかったんだ! オンライン飲み会でうまく説明できなくても当たり前だったんだ! わっはっは!


……と開き直ることも中々できませんが……。浅草の……ちょうちん……。



落ち込むのはほどほどにして。

今回ゲラを書店員さんに送らせてもらっていて、
早速読んでくださった方からご感想を頂戴したりもしております。


書きながら感じていたことが伝わったのかも! ということもあれば、
自分とは違う目線で物語や登場人物や諸要素をとらえてくださっている! ということもあり、
拝見する度にとても感激してしまいます。


僕にとってのなにかが他の人から様々な反応を得られるというのは、いつも感動的な経験なのです。
僕のイメージと同じ方向を向いたものであるなら、それは僕の感じていることが少しでも共有し共感するに足るものであったということで嬉しいですし、
まったく違うものであれば、それは僕の主観ではたどり着けない何かが生まれたということで、同じように嬉しいです。



ここで、当初の目的に立ち返ります。紹介のブログ記事ですね。
以上のような形で読んでくださった方の反応が嬉しいとすれば、「読者に本を手に取りたいと感じさせねば!」「魅力を伝えて買ってもらわねば!」みたいに力んで紹介文を考えるのではなく、自分の思うところを伝えて、あとは受け取る方に任せるというやり方の方がもしかしたらうまくいくのでは……?

なんてことを考えているうちに、あらあら不思議、するすると紹介記事が書けたのでした。


いや、でもこれはこれでなんかアレだな……言葉足らずだな……もうちょっとやりようがあったのではないか……(浅草のちょうちんモード)


ま、まあ! 今後頑張って成長していけばいいのです。これははじめのはじめの第一歩なのです。
今更尼野ゆたか大地に立つのかよという感じですが、「遅すぎることなんてほんとは どこにもありはしないのだ」という言葉もあります(THE BLUE HEARTS「泣かないで恋人よ」)。なにするにせよ、思った時がきっとふさわしい時。



ところで余談ですけれども。
アメーバのうにょうにょそれ自体はおそらく解き明かすことが可能であり、
アメーバ(ないしその祖先)は環境に適した特性を模索する中で徐々にうにょうにょしていって、最終的にしっかりうにょうにょするようになったという流れが進化論的に説明できると思われます。

となると、尼野ゆたかのうにょうにょに筋の通った解説を加えてくださった谷津さんは、尼野ゆたかにとってのダーウィンであると言えるのかもしれません。

それは取りも直さず、尼野ゆたかが進化を続けないと谷津理論は否定され、谷津さんが進化論の権威から地球平面説を主張するトンデモ研究者かなにかへと転落してしまうということでもあるので、頑張らないといけません。突然の重責……




尼野ゆたか、感謝する

という感じでなにかと不定型な尼野ゆたかですが、ひとつはっきりしていることがあって。それは、大変幸運に恵まれているということであります。

尼野ゆたかを導いてくださった担当編集さん。
素晴らしい仕事をしてくださったイラストレーターさん、デザイナーさん。
取材に協力してくれた友人たち、よくしてくださる先生方、応援してくださる書店員さん読者の皆様。

皆様のお力で、「神様の恋愛相談請け負います」は出版にこぎ着けられました。
それらに報いるためにも今回のうにょうにょが沢山の方に届けばいいなと願いつつ、読んでくれる人になにがしかの感興がわくようなうにょうにょを表現できるようこれからも頑張りたいと思います。
うにょうにょ。

2021年7月 尼野ゆたか




尼野ゆたか、追記する


デジタル・ケイブの話を書きましたが、そのイベントにお声がけを頂きまして、
7月18日14時より尼野ゆたかと福田和代さんのトークがYoutubeで生放送されます!
詳細はこちら

考えてみれば、浅草のちょうちん事件はクローズドなところで練習させてもらえたと言えるわけで、生放送ではその苦い失敗を糧に滑らかな語り口を実現します! したいです! できればいいなあ! 頑張ります……

視聴はどなたでもできますし、Googleアカウントお持ちの方はリアルタイムでコメントができますので(本名で登録されている方はそれが表示されちゃうのでご注意)、是非是非よろしくお願いします。頑張ってお答えします。



7月24日21時には、尼野ゆたか論を突然発表した谷津矢車さんにTwitterのスペース機能でインタビューをしていただくことになっております。
詳細はこちら

これはTwitterアカウントお持ちの方のみが聞けるものですが、もしお持ちで参加してもいいよという方は是非是非いらしてくださいませ。


上で使用したアメーバというのはもののたとえであり、尼野ゆたかは福田さんや谷津さんの指摘や問いにうにょうにょしてないで的確な表現を用いて返答する必要があります。頑張りますので、応援よろしくお願いします! なにとぞご覧頂ければ……!!